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【今治しごと図鑑】創業20周年を迎えた「工房織座」 100年前の織機に未来を織り込む、里山のものづくり

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今治市玉川町に工房とショップを構える「工房織座」が、2025年11月1日に創業20周年を迎えました。旧式の織機をよみがえらせ、風合いにこだわったマフラーやストールなどの織物を生み出し続ける同社。20年の節目を機に、同社取締役の武田英里子さんに、これまでの歩みと、未来への展望を伺いました。

目次   

旧式織機9台が打つシャトルの音が、里山の風景をつくる         

工房織座の工房には、全国から探し集めた旧式の織機が9台並びます。

「父(創業者の武田正利さん)がタオルメーカーの工場長として長年培ってきた技術があって、その技術でしか生み出せないものづくりがあります。今治というタオル産地で、あえて“旧型のシャトル式織機”にこだわる意味はそこにあります」

工房織座が大切にしてきたのは、旧式織機でしか生み出せない風合いや織り、無縫製で形づくれることを生かした、人の暮らしに寄り添う心地よい織物づくり。デザインは時代にあわせて変わっても、その芯はぶれずに20年を走り続けてきました。

9台の織機は、ただ同じものが並んでいるだけではありません。それぞれに個性があり、その特性を見極めながら使い分けます。

「例えば、“もじり織り”という今治産地では唯一の技法ができる織機、多重織りが得意な織機など、得意分野があります。理想とするデザインや風合いに合わせて、時には織機のスペックそのものを改造したりしながら使い分けています」

しかし、旧式ゆえに部品は作られなくなり、状態の良い織機も全国的に少なくなっています。

「全国の織物産地の工場の隅で眠っていた“もう処分されるはずだった機械”を持ち帰り、父が動くところまで復活させるところから始まります。そこからさらに改造を施して、オリジナルの技法を生み出せる織機を作っているんです」

まさにゼロからイチを生み出し、その可能性を広げ続けている技術。

「できる限り、次の世代にも引き継ぎたい」 ‎‎と武田さんはいいます。

工房織座のものづくりの特長の一つは、「現場とデザイン」の距離がとても近いことにあります。

「職人が『こんな織り方を試してみました』と持ってきた試作品から商品が生まれることもあります。他産地の技術や素材メーカーさんとの会話をヒントに新しいアイデアが出ることもある。現場の感覚をすごく大切にしています」

工場長自ら展示会に立つことで、バイヤーの声や今治にはない技術に直接触れる。“外の空気”を現場に持ち帰ることが、工房織座らしい商品作りにつながっています。

さらに強みの一つが“お客さんとの距離の近さ”です。

「工場を公開し、直営ショップを併設するスタイルは、創業当初からのスタイル。来てくれた人に『どう作っているか』を見てもらうことで、買ったものに愛着を持ってもらえる。時間がかかっても、丁寧に接客することに意味があると思っています」

この日は工房織座の商品を扱っているアメリカ・ポートランドのセレクトショップで実際に商品に出会ったのだというご夫婦が、帰国にあわせて工房まで足を運んでいました。

「お客さんと話しながら、喜びの声を直接聞ける立場にあることは幸せです」と武田さん。

「(こうした環境に身を置けることは)ありがたいことだと思います。父が始めた工房を手伝おうと思えたのは、あの時の自分にしかできなかった大事な選択だったのかもしれません」

東京から今治へ──家業に飛び込んだのは“直感”         

武田さんの父、正利さんが長年勤めたタオルメーカーを54歳で辞め、工房織座を創業した2005年当時、武田さんは東京の広告制作会社で働いていました。

「その頃私はちょうど東京で新入社員になったばかりでした。営業職で激務の日々、自分の限界と向き合う時期でもありました」

転勤や多忙が重なり、次第に他の生き方に意識が向くようになったといいます。

「都会での働き方に少し無理を感じるようになり、地元に戻ることを選びました。
ただ、“父の後を継ぐため”という明確な動機があったわけではなく、自然と地元に帰る流れになった、というのが正直なところです」

2年間の会社員生活を経て、帰郷。当時の工房織座の様子はというと…

「父は長年タオル工場で現場を担ってきた職人で、デザインや営業といった分野よりも、“ものをつくる技術”にこそ力を発揮するタイプでした。独立後も織機を自ら改良しながら、多くのものづくりに打ち込んでいました」

創業当時、古い機織りで商品をつくるという取り組みは珍しく、周囲の受け止め方もさまざまでした。

「それでも父のまわりに、少しずつ応援してくれる人が集まってきていました。
営業や販売の準備を手伝ってくれる人、技術面で支えてくれる人など、いろいろな方が力を貸してくれて」

それは、いわば正利さんを中心に集まった“応援団”。それぞれが本業を持ちながら、自分にできる形で力を貸してくれたのだそう。

「そうした支えのおかげで、父はひたすらものづくりに打ち込めたんです」

創業から最初の1年で、「何十種類もの商品」をつくり続けたという正利さん。

「その1年の間に生まれた商品の中には、今でも全く同じ原型で販売し続けている定番商品がいくつかあります。私が家に戻った頃には、すでに数えきれないほどの商品があったんです」

家業を手伝う決意を固めるきっかけとなったのも、父が織り上げた草木染めのマフラーでした。
「草木染めのマフラーを初めて見た瞬間、”これはきっと喜んでもらえる”と、直感的に感じました」

当時の若い世代の好みとは少し距離がある存在でしたが、それでもその丁寧な手仕事に、可能性を感じたといいます。

一方で帰郷当時の「工房織座」の状況は、出荷には再利用した段ボールを使い、商品にはブランドタグもない。「足りないものだらけ」だったといいます。

転機は、ギフトショー出展が決まったことでした。

「補助金を活用して出展できることになったと聞いて、『この状態じゃ出られない!』と大慌て。カタログ、名刺、ホームページ…全部自分で準備しました」

8ページのカタログは、自らデザインして制作。
ブースづくりも、周囲のサポートを受けながら仕上げていったといいます。

「展示会は大盛況でした。当時、まだ珍しかった“春夏マフラー”を出品していたのですが、これが時代の追い風とマッチしたのだと思います。少量生産でも“欲しい”という声が届いていたため、小さな市場でも必ず広がるという期待を持って作り続けていました。 工芸的なものへの関心の高まりと、『夏に巻くマフラー』という概念がちょうど広がり始めた頃だったんです」

こうして“工房織座”の名は一気に全国へと広がり始めました。

家族とともに、仕事の形をつくり直す           

その後、結婚と出産を経て、ご主人も工房織座に加わることに。

それまでは、営業から商品企画、オンラインショップの運営など多くの業務を担っており、日々めまぐるしく働いていたという武田さん。

「長男が生まれるタイミングで、夫も工房織座に合流しました。夫は長くタオル業界にいたので、自然な流れだったと思います。そこから、二人で家業に向き合う日々が始まりました。」

出産そして育児と家業を両立するため、仕事内容も見直したと振り返ります。

「遠方への出張や外での仕事は一度すべて見直すことにしました。 “暮らしと仕事の形”をしっかり整えたかったんです」

その後も丁寧にものづくりを続けた結果、会社は堅調に成長。その頃、新たにタオル部門も立ち上げました。

「最初は新しい領域に踏み出すことへの迷いがありました。これまで“旧式の織機で縫わずに織る”ことにこだわってきたので。でも、父にも夫にもタオルメーカーで勤めてきたノウハウがあり、それを活かさないのはもったいないと思って」

機能や風合いにこだわってつくられた同社のタオルは現在、全国のライフスタイルショップでも扱われ、確かなブランド力を持つようになりました。夫の前職のタオルメーカーとの繋がりを活かして、高品質なオリジナルタオルを企画できる点も、業界から高く評価されています。

「気づけば20年」                     

「この20年の節目となる1年で、少しずつ形にしたいことがあります。過去の人気商品の復刻など、20周年に合わせた企画に取り組んでいこうと思っています」

その一つが、同社を象徴する織り方「たてよこよろけもじり織り」。ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞も受賞した、世界に唯一といわれる独自の技法です。

「美しい織りなんですが、量産に向かないこともあり、7~8年前に一度生産をやめました。でも、また今の時代に合うデザインにして復刻したい。まだサンプルもこれからですが、1年かけて丁寧に準備していこうと思います」

20周年を迎え、さらに視野は広がります。

「いずれは玉川にもう少し大きな人の集まるような場所を作りたいんです。今も工房内にショップやワークショップの場はあるのですが、子どもが遊べて、ものづくりに触れられるような広い場所。玉川には、そういう空間がまだ多くはないので」

「20周年を機にもう一度原点に立ち返って、お客さんが求めるもの、自分たちがいいと思えるものを丁寧に作っていきたい。創業時の織物にかける想いは変わらず100年先もこのものづくりが続いていくようにしたいと思っています」

旧式織機の響く工房から生まれる一枚の布が、これからも今治の里山の風景とともにあり続けます。

今治経済新聞(2024/7/10)
今治・工房織座が恒例の「布市」 秋冬の新作も初お披露目

 

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