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【今月の気になる】人口たった11人、瀬戸内の高井神島がSNSで大きな話題に 世界のマンガ島目指す

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今治市から北東30キロの位置にあり、人口わずか11人の小さな離島・高井神島が現在、SNSで話題を集めている。

話題の発信源は、インスタグラムアカウント「高井神島 | 瀬戸内海に浮かぶマンガ島」(@manga.nataorenoki)。1月29日に投稿された「この島を世界のマンガ島にします」と題されたリール動画は公開から1カ月足らずで145万回以上再生され、3.4万以上のいいねが寄せられている(2月25日現在)。


 

今治の隣…だけど船で2時間?人口11人の離島「高井神島」

 愛媛県上島町に位置する高井神島は、因島(広島県尾道市)や弓削島(愛媛県上島町)からの連絡船でしかアクセスできない離島。今治からは高速船を乗り継ぎ、2時間以上かかる。

近年は人口減少が深刻化していたが、この状況を打破しようと立ち上がったのが、島出身の木村定さんと、島に魅せられた長谷部理さんだった。

▲長谷部理さん(中央)と木村定さん(右)。写真左の馬場政典さんは、昨年4月に一家で島に移住した。

 20年以上東京で大学職員として働いていた木村さんは、両親の介護のために約20年前にUターン。以降、現在に至るまで自治会長を務めている。

ある時、木村さんは東京時代の仕事仲間だった長谷部さんを島に招待した。山梨県出身の長谷部さんは父親が経営する印刷会社を継ぎ、事業を拡大。現在は山梨と東京を中心に、医療や福祉、芸能など、複数の会社を経営する。「『月5万円で生活できる』と誘われて、旅行気分で初めて島に来た。瀬戸内海の風景に、まるで日本じゃないような衝撃を受けた。それ以来、高井神島のとりこになった」と長谷部さん。以来、関東と高井神島を往復する生活を始めて15年ほどになる。

 しかし、木村さんがUターンした当時は50人ほどいた島民も、年々減少の一途をたどるばかり。そこで、人脈豊富な長谷部さんに相談し、2011(平成23)年からは地域活性化のために演歌歌手などを招いた「高井神島ようこそ祭り」を開催するなど、さまざまな取り組みを行ってきた。

2016年、「マンガ島」プロジェクト始動

 「年に一度の祭りだけでなく、常に人が集まる仕組みを作りたい」と考えた木村さんが目を付けたのが、世代を超えて愛される「漫画」だった。長谷部さんが、自身の知人で、離島医療をテーマにしたマンガ「Dr.コトー診療所」の作者、山田貴敏さんに相談したところ、快く原画を提供してもらえることになった。町の許可を得て公民館の壁に原画を描いたのが「マンガ島」のスタート。

さらに、同じく知人である浜田ブリトニーさんなど、多くの漫画家や関係者の協力もあり、現在では30種類以上の壁画が島を彩る。海岸沿いの壁面は全て埋まったため、今後は山手の10軒ほどの空き家を舞台に、作品はさらに増えていく予定だという。





原画提供に協力した「あばれ花組」作者の押山雄一さんは、制作作業の様子を見たいと、東京から島に足を運んだそう。「大きな壁に描かれていく様子を見て、感激していた」という。

人口7人→11人へ。平均年齢もグッと下がり、島の活性化を加速

一昨年には、島に住みながら一緒にプロジェクトを進めてくれる移住者を募るため、長谷部さんが中心となり募集情報を移住サイトに掲載。投稿を見た馬場政典さんが、昨年4月、小中学生を含む家族4人で愛知県から移住した。

町工場に勤務するサラリーマンだった馬場さん。「都会でそれなりの生活はできるけど、もっと『やり遂げた感』を感じたいと漠然と思っていた。移住サイトで高井神島を見つけ、試しに来てみたところ、自然のすごさに圧倒された。ここでなら思う存分、やりたいことができると感じ、移住を決めた」と話す。現在は妻の智恵さんと共に、島内唯一の民宿や食堂の運営を担う。

小学校3年生と中学校1年生の娘は、弓削島まで船に乗って登校している。「都会にいたときよりも人は少ないが、今の方がいろんな大人が見守ってくれていると感じる」と馬場さん。「のびのびしていて、子育てするのにはいい環境だと思う。いずれ島から出たときに、きっとありとあらゆることに便利さを感じると思うし、どこでもたくましく生きていけると思う」とも。

▲馬場さんが中心となって運営する食堂「まんが亭」。妻の智恵さんが調理を担当する。

 ここ数年で、SNSなどを見て観光客が増えたこともあり、写真や動画を使って、よりPRに力を入れようと、昨年10月にはインスタグラムアカウントを立ち上げた。冒頭の話題となった投稿を経て、「当初は1000人にも満たなかったフォロワー数が1月に入って激増した」と馬場さん。現在のフォロワーは1.3万人を超える。木村さんは「今では毎週土日になれば団体や観光のお客さまが来てくれる。こんなになるとは思わなかった」と驚く。「にぎやかな声を聞くだけで元気をもらえる」と笑顔を見せる。

4月に「漫画学校」開校、漫画の聖地へ

 4月には「漫画学校」の開校も控える。壁画の作者である漫画家を講師に招き、漫画家を目指す大人や子どもたちを県内外から集めて漫画の描き方を教える予定だ。会場となるのは一昨年閉校した町立高井神小中学校の校舎。同27日には3人の漫画家を東京から招き、「入学式」を行う。本格的な開講は5月で、週末を講義日とする予定だという。

 長谷部さんは「漫画学校に来てくれた人の中から、一人でもプロが生まれてくれれば。漫画の聖地・高井神島として、世界の漫画島を目指したい」と意気込む。

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