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「中学生が来てくれて、にぎやかになったよ」 今治・玉川での地域食堂が生んだ、小さな変化

「中学生が来てくれて、今日はにぎやかやね」

昨年10月、玉川町で開かれた地域食堂。近所に住む高齢女性の言葉に、配膳をしていた生徒たちの顔がほころびました。

テーブルに並んだのは、地元のシンボルをモチーフにした「玉川ダムカレー」。ごはんで堤体を、カレールーで湖面を表現した一皿です。主催したのは、今治東中等教育学校3年生の生徒たち。配膳をしながら自然と会話が生まれ、会場は次第にあたたかな空気に包まれていきました。

「これまで、地域のおばあちゃんとゆっくり話す機会はほとんどなかった」と振り返るのは、生徒の南條蒼昊さんと松木樹菜さん。当初は「何を話せばいいのか」と緊張していましたが、昔の仕事や町の思い出話を聞くうちに、時間はあっという間に過ぎたといいます。

延べ60人以上が訪れた会場では、「中学生が来てくれてうれしい」「またやってほしい」といった声が次々と寄せられました。食事をきっかけに、新しい出会いが生まれ、久しぶりの再会を喜ぶ姿もありました。

この活動は一度きりで終わらず、共感した住民が自主的に地域食堂を継続する動きも生まれています。「玉川は第2の故郷になった」と語る生徒たちの挑戦が、地域の背中をそっと押しました。

教室を飛び出し、玉川をフィールドに半年間の挑戦

2月5日、玉川文化交流館で開かれた発表会。今治東中等教育学校の3年生は「総合的な学習の時間」の一環として、地域食堂を運営した「福祉班」をはじめ、「アート班」「農業班」「観光班」の4グループに分かれ、玉川町というフィールドで半年間、地域の課題に向き合いました。

指導に当たった藏田圭太教諭によると、活動当初、生徒たちは「自分たちに何ができるのか」と戸惑いを抱えていたといいます。教室を飛び出し、地域に入っていくことへの不安もありました。しかし、地域に足を運び、実際に話を聞き、試行錯誤を重ねる中で、少しずつ役割が見えてきたのだといいます。

会場には、鈍川米を再ブランディングした「どんまい」、玉川の風景を描いた「ぼくらの美過疎(ピカソ)展」、観光促進を目指すサイクリングマップなど、多彩な展示が並びました。パネルや試作品、映像を交えた構成からは、「伝えよう」とする姿勢がにじみます。

発表に向けては、今治経済新聞が事前に「伝え方講座」を実施しました。地域での活動をどう整理し、どう言葉にするか。見出しの付け方、構成の組み立て方、写真や数字の効果的な使い方などを具体的に伝えました。

活動することと同じくらい、それを社会にどう届けるかも重要です。当日の式典運営も生徒主導。受付、司会、進行までを担い、自らの学びを自らの声で伝えました。

それぞれの班が見つけた“玉川”

福祉班 地域食堂で生まれた60人の交流

10月に地域食堂をプロデュースした福祉班。きっかけは、「一人暮らしの高齢者が多い」という地域の現状に向き合ったことでした。

当日は生徒たちが受付から配膳、声かけまでを担当。最初は緊張した面持ちでしたが、テーブルを囲むうちに自然と会話が弾み始めました。さらには地元・玉川中学校の生徒らが郷土芸能の龍岡万歳を実演。会場を盛り上げました。

「昔はこのあたりに商店があってね」「若いころはこんな仕事をしていたんよ」「龍岡万歳も懐かしいね」――。高齢者が語る思い出話に、生徒たちは何度もうなずきながら耳を傾けます。単なる“食事の場”を超え、地域の人と人とをゆるやかにつなぐ時間が生まれていました。

一方で、生徒たちは課題も実感したといいます。実際に地域食堂を訪れたのは、普段から外出している人がほとんどで、当初思い描いていた「外出のきっかけをつくる」という目的は十分に達成できませんでした。それでも、「中学生が来てくれてうれしい」「またやってほしい」という声は、何よりの励みになりました。

福祉班のメンバーは、「次は、普段あまり外出していない人に直接声をかけたり、中学生と地域の人が一緒に買い物に出かけたりするなど、自然に外へ出るきっかけづくりを進めたい。世代を越えた交流の場に広げていきたい」と意欲を見せます。

アート班 “好き”から見つけた玉川の風景

玉川の「好きな風景」をテーマに、油絵を制作したアート班。神社の荘厳な佇まいから街中のポストといった日常の一コマまで、生徒の視点で切り取られた作品が並びました。制作には今治市在住の画家・仙波さくらさんが協力しました。

お気に入りの景色を描き上げた前屋英花さんは、創作活動を純粋に「楽しかった」と振り返ります。同時に、「地域の方々の声を聞く中で、自分たちの活動が着実に地域の活性化につながっていると実感できました」と、手応えを語ってくれました。

今後は作品をキーホルダーや土産パッケージに展開するなど、「玉川=アートの町」という新たなイメージづくりにも挑戦していきたいとしています。

農業班 鈍川米を「どんまい」に再ブランディング

農業班は、玉川町鈍川(にぶかわ)産のお米を「どんまい」と命名し、その認知度向上に奔走しました。地元企業の「月原ベーカリー」や「大阪屋」とタッグを組み、米粉を活用したカヌレやパウンドケーキ、食パン、ピザなど多彩な商品を開発。完成した商品は、聖カタリナ大学や松山東雲女子大学などの大学祭、石鎚神社マルシェといった各地のイベントで販売しました。さらに、稲わらを使った「ワラシシ」作りにも挑戦。農業を切り口とした地域のPR に取り組みました。

村上紫星さんは「地域の魅力を伝える楽しさを知ると同時に、マーケティングの視点を得られたことが大きな収穫」と振り返ります。

今後はふるさと納税や大手小売店との連携を通じ、玉川を代表する名産品づくりへと発展させていきたいと意欲を見せていました。

観光班 廃線をきっかけに新たな観光導線を提案

民間バスの玉川路線廃止という厳しい現状を受け、観光班は「逆境を観光客増のチャンスに」と立ち上がりました。ツアーアイデアのコンペ実施や、実地での試走を重ねたサイクリングマップの制作に奔走。地域住民の協力を仰ぎながら完成させました。

3月には実際に試走した生徒たち。「玉川の水のきれいさに驚いた」「自然の中を走って気持ちよかった」など、実際に地域に出たからこそ実感できたこともたくさんあったよう。

玉川の豊かな自然と温泉を繋ぐこのプランをさらに発展させ、地域観光の活性化に貢献したいと意欲を燃やしています。

「まちに新しい風を吹き込んでくれた」

2月8日には、地域住民に向けたマルシェも開催されました。生徒たちが直接ブースに立ち、「玉川ダムカレー」を振る舞うなど、発表会とはまた違い、来場者に直接自分たちの言葉で学びを伝える姿が印象的でした。

マルシェに訪れた市内在住の塩見裕子さんは「体を動かして積み重ねた時間が、地域への愛着につながる。アート制作も、ワラシシ造りも、向き合っている時間を想像すると、一生忘れられない経験になったのでは」と笑顔を見せました。

西条市から訪れたという女性は「子どもたちの発想に驚かされました」と評価。「大人になったときにきっと思い出すはず。地域を大切にする気持ちが育っていると思う」と期待を寄せました。

これらの活動を地域ぐるみで支えてきたNPO法人玉川サイコーの代表、森譲寛さんも今回の取り組みに大きな手応えを感じています。

「少子高齢化やコロナ禍で停滞していた町に、生徒たちが新しい風を吹き込み、止まっていた風車を回してくれた」

「ここが彼らにとっての『第二のふるさと』となり、心の中に郷土を想う種が蒔かれたならこれ以上うれしいことはない」と期待を寄せます。

半年間の挑戦は、生徒にとっても地域にとっても、確かな手応えを残しました。地域を舞台にした学びが、これからどのように広がっていくのか。継続の先にある次の展開が注目されます。

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