今治・町谷のそば店「信州そば久保田」(今治市町谷)が3月29日、約30年の歴史に幕を閉じた。店主の久保田雅文さんが「おなかいっぱい食べてほしい」と提供し続けた大盛りそばは、日本テレビ系のテレビ番組「オモウマい店」でも紹介され全国的な話題となったが、久保田さんの体調面の不安から、惜しまれつつ、のれんを下ろした。
久保田さんは、就職を機に地元・愛媛を離れ、横浜でサラリーマン生活を送っていた。転機となったのは、同じく愛媛出身の妻・百合子さんとの結婚。Uターンを決意した際、「自分の手でビジネスを始めたい」と考えた雅文さんの目に留まったのが、今治市内でそば店を営んでいた百合子さんの両親の姿だった。一念発起して修業を積み、1996(平成8)年10月17日に同店を開いた。
開店当初は一般的な量だったが、雅文さんの旺盛なサービス精神から「大盛り」をメニューに追加。客の喜ぶ顔が見たいと徐々に量が増え続け、気づけばテレビ番組で特集されるまでに。放映後は各地からファンが訪れる「デカ盛りの聖地」として定着した。
「寝る時間以外はずっと店に立ち続けてきた」と語る30年。大量のそばを仕込むため、雅文さんの生活は毎日午前3時に始まった。共に店を支えてきた百合子さんは、その過酷な労働環境の中で、2人の娘の子育てを犠牲にしてきたという後悔も胸にあるという。しかし、2人を支えたのは、成長した娘たちの家族や信頼できるスタッフの存在だった。
今年2月、蓄積した疲労による体調不安から閉店を決断。百合子さんはこれまでの歩みを「マイナスな出来事もあったが、全てを挽回できたのはこの店があったから。店を通じて多くの人とつながれたことが、私にとって最大のご褒美」と振り返る。一方、過酷な日々を全うしたからこそ、「もう一度同じ苦労をしろと言われたら…嫌ですね(笑)」と晴れやかな笑顔を見せる。
閉店を告知してからの反響はすさまじく、連日行列が絶えなかった。最後の日々、雅文さんは深夜0時から仕込みに入り、客を迎え続けた。「皆さんに、今まで本当にありがとうございましたと伝えたい」と話す。
今治に「デカ盛り」の文化を根付かせた名店は、家族とファンへの深い感謝に包まれながら、その長い歴史に静かに終止符を打った。