
瀬戸内海沿岸地域で親しまれてきた干物の「でべら」が今年も市内のバー「ROKUSAN(ろくさん)」(今治市黄金町)に登場し、訪れた客は懐かしみながら季節の味を楽しんでいる。
でべらは、瀬戸内海沿岸地域で親しまれてきた伝統的な食材で、独特の風味と食感が特徴。今治市大島の漁師・大神洋輔さんによると、「でべらはタマガンゾウビラメという、ヒラメみたいに平べったい魚を干したもの。瀬戸内海ではよく取れる魚」だという。背骨が固いため、たたくなどした後、軽く火で炙(あぶ)り、身を割いて食べるのが一般的。つまみとして食べるほか、ひれ酒のように熱かんに入れるなどして楽しむ。
店主の小池公一さんは「『オールドイマバリ(今治城を中心とする旧中心市街地)』の伝統の味であり、文化であり、生活様式の一つ。次の世代につなげていきたい」と、冬になると「でべら」を入荷していると話す。今年は1月中旬から提供を始め、4月ごろまで置く予定だという。
同店は創業23年の老舗バー。元々、70年ほど前の1954(昭和29)年に小池さんの祖父母が同地で酒場を開業し、おでんなどの料理を提供していた。「祖父の名前が『ろくろう』で、禄さん。屋号を受け継ぎながら、アルファベット表記にした」と小池さん。
「禄さん」の代表的なメニューの一つだった「ナゴヤ料理」も伝承する。ナゴヤは、ショウサイフグやクサフグなどを総称した方言で、同じく「瀬戸内海では防波堤などでもよく釣れる魚」(大神さん)。同店では「ナゴヤざく」「ナゴヤちり鍋」などとして提供している。「かつて『ナゴヤの禄さん』と呼ばれていたほど、この辺りの地域では親しまれていた味。ナゴヤをお客さまに提供する瞬間には、特に喜びを感じる」と小池さん。
「今治は地方の港町ならではの歴史ある、いい街。地域を見直すきっかけづくりができれば」と小池さん。「人の役に立ちたいという思いもある。でも結局は、自分が楽しいことをやっているだけ」と笑う。
営業時間は18時~24時。日曜定休。